金光禎寛先生が留学から帰国しました。

【留学報告】名古屋市立大学大学院医学研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学 金光禎寛

私は2019年10月から英国のUniversity of Manchesterに1年間の予定で留学させていただきました。マンチェスターはロンドンからは北東、イギリスのほぼ中央に位置する都市で、古くは貿易が盛んであったことから古い運河の波止場が街の中心部に残されています。また、ご存知の方も多いと思いますが、Manchester CityとManchester Unitedの2つのフットボールチームがあり、フットボールが非常に人気のある街です。本当に偶然なのですが、幸運にもManchester Unitedのゲームチケットを購入することができ、スタジアムで実際に試合を観戦する機会にも恵まれました(写真)。Manchester City の試合も観に行く予定も立てていたのですが、ハリケーンの直撃で観にいく予定の試合が中止になってしまい、スタジアムで記念撮影だけ行いました。また、マンチェスターは交通の要所としても知られています。私も、リバプール、ヨーク、チェスターに日帰り旅行をしました。どの都市も大聖堂がとても美しく印象的でしたが、特にチェスターは中世ローマ時代の街並みがそのまま保存されており一番印象に残っています。
私は街の中心に位置する大学ではなく、主に空港の近くに位置するWythenshawe地区にあるWythenshawe hospitalで主に仕事をしておりました。そこでProfessor Jacklyn Smithの指導の下、英国のバイオバンクに保管されている健常人と慢性咳嗽患者さんの気管支粘膜生検検体標本と気管支肺胞洗浄液を用いて、気道上皮の構造的・機能的変化や気道粘膜下の神経リモデリングと炎症細胞の機能解析を行うこととなりました。また、慢性咳嗽の新薬の治験にも関わらせていただく機会をいただきました。慢性咳嗽は患者さんのQoLを著しく損ねる疾患で、慢性咳嗽の有病率は一般人口の10%程度とも言われています。慢性咳嗽に効果のある薬剤は50年以上も市場に新薬が上市されていませんでしたが、Smith先生が中心となりP2X3受容体拮抗剤の慢性咳嗽に対する効果が大規模臨床試験で確認されました(Lancet Respir Med. 2020: S2213-2600(19)30471-0. doi: 10.1016/S2213-2600(19)30471-0)。Whythenshawe hospitalではP2X3受容体拮抗剤のほかに、慢性咳嗽に対する有効性を評価するために様々な薬剤の治験が行われています。その中で、ニコチン受容体の1つであるα7受容体刺激剤や非特異的にVoltage Gate Sodium Channelを阻害する作用のあるリドカインの慢性咳嗽に対する有効性を評価する機会をいただき、現在論文を投稿中です。
ヒト検体を用いた研究計画の立案が終わり、これから研究できるとワクワクしていた時に新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの波が英国にも押し寄せました。英国全土で大学研究施設の閉鎖が決まり、基礎研究、臨床研究ともCOVID-19関連の研究はすべて禁止、病院のofficeにも立ち入りができなくなりました。そのため在宅でα7受容体刺激剤やリドカインの有効性に関する論文の作成を進めました。
留学生活の前半はBrexsit、後半はCOVID-19の一色でしたが、同僚や街で出会った方々は皆さん親切で、様々な国から来た人と短期間でも交流を持つことができました。同僚は日常生活で困っていることのサポートや、自宅でのクリスマスパーティーに招待してくれました(写真、左端がSmith先生でそのお隣の方がご主人です)。Smith先生にはロンドンで行われたBritish Thoracic SocietyのWinter meetingへ連れていって下さっただけでなく(写真)、ご家族でのお食事会にもお招きいただきました。街で出会った人の中には、内戦がひどく職を求めてアフリカや中東から英国にやってきた人もいて、そういう方の話を伺うと日本で過ごしている当たり前の日常は当たり前ではないことを実感する機会にもなりました。これらの経験は今後の自分の人生の財産になると思います。研究が志半ばで終わってしまったことは残念でしたが、再渡英の機会に恵まれるのであれば、もう一度英国で研究に携わりたいと思いました。
最後になりましたが、英国での留学生活を送るにあたり、名古屋市立大学大学院医学研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学の新実彰男教授、医局員の皆様のご厚意に感謝申し上げます。また、母校である川崎医科大学同窓会からも留学にあたり援助をいただき、誠にありがとうございました。最後に、単身で渡英したことでいろいろ大変な想いをさせた家族にもこの場を借りて感謝の気持ちを伝えたいと思います。短い時間ではありましたが、英国での経験を糧に今後の自分の人生をより実りのあるものとしていけるように精進する所存です。今後ともご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。(金光禎寛)
留学①

留学②

留学③