呼吸器・アレルギー内科の特徴、診療に対する心がけ
呼吸器・アレルギー内科は喘息・慢性咳嗽や肺がん、肺炎をはじめとした感染症、COPD、間質性肺炎など、肺や下気道(気管、気管支)の病気の診断と治療を行います。
肺は常に大気を吸いこんだり吐き出したりしているので、目に見えない様々なもの(アレルギーの元や病原体、タバコなどの煙、種々の刺激物質や大気汚染物質など)と接触します。そのため、肺の病気の原因は、アレルギーや感染症、職業性、肺がんやCOPDの発病リスクを高める喫煙、など様々です。
また、お薬や健康食品、あるいは膠原病、リウマチ、血液疾患など他の病気が肺疾患の原因になることもあります。私達はこれらの幅広い疾患に対応しています。
呼吸器・アレルギー内科は、循環器内科、消化器内科とならんで内科の中でも最も患者さんの数が多い領域です。
私達は、患者さんのお話をよくうかがい、最新の適切な検査により、 より迅速、安全で、正確な診断を第一に心がけます。
最新の診断法で喘息、慢性咳に挑む
喘息や慢性咳嗽(長く続く咳)の診断や管理については、2012年4月より専門外来を開設し、呼吸機能検査、気道過敏性検査、呼気NO(一酸化窒素)、IOS(強制オッシレーション法)、誘発喀痰といった専門的な検査や、気管支サーモプラスティ*などの高度医療も行っています。日本アレルギー学会の「喘息予防・管理ガイドライン」や日本呼吸器学会の「咳嗽に関するガイドライン」の作成にも参画しており、診断や治療が難しい難治例の患者さんにも国内最高レベルの診療で対応させていただきます。喘息、COPDなどの吸入療法では医師や院内および院外の薬剤師が連携しながら吸入のしかたを分かりやすくご説明し、医師、薬剤師、看護師が協力して患者さんの治療にあたっています。
*気管支サーモプラスティ:重症の喘息患者さんを対象に気管支内視鏡を用いて行う新しい治療法で、内視鏡の先端からカテーテルを出し、気管支を温めることにより厚くなった気管支平滑筋を減少させ、喘息症状や発作を抑制します。当院では東海地方で最大、全国でもトップ5クラスの数多くの患者さんで治療実績を挙げています。
エビデンスに基づき、患者さんに合わせた肺癌診療
肺がんについては、病理部と連携して迅速かつ正確な診断を心がけています。呼吸器外科や放射線科と協力しながら、病状・病期にあわせて適切な治療を行っています。 化学療法では、科学的根拠に基づき、患者さんの年齢や体力などにあわせて治療薬を選択し、効果・副作用について十分にご説明しながら継続しています。また「西日本がん研究機構(WJOG)」に参加し、新しいがん化学療法開発の努力をしています。がんに伴う苦痛や不安に対しては、緩和ケアチームの協力も受けて少しでも心身のつらさが解消できるように配慮しています。
充実した呼吸器内視鏡検査
呼吸器内視鏡検査については、関連病院や周辺医療機関のご相談にも高い専門性を持って対応できる最新の設備を整えています。
気管支鏡検査については、全国的にみても最先端の機器を種々保有しています。早期肺癌を発見する蛍光気管支鏡、末梢病変に対するガイドシース併用ラジアル型気管支腔内超音波断層法(EBUS-GS)、リンパ節の病理診断に有用な超音波気管支鏡下針吸引生検法(EBUS-TBNA)、間質性肺炎や肺がんの診断のためのクライオバイオプシー(凍結生検)、胸水・胸膜疾患の原因検索に有用な局所麻酔下胸腔鏡などを揃えています。通常の気管支鏡では到達しにくい肺の奥深く(末梢)にある病変に対しては、普通の気管支鏡の3分の2程度の細さの細径気管支鏡や、3分の1程度の細さの極細径気管支鏡を用いて検査します。気管支喘息の難治例には各種生物学的製剤や気管支サーモプラスティなどの最新の治療法で対応しており、特に気管支サーモプラスティでは全国有数の実績があります。また、ほとんどの患者さんで静脈麻酔薬を使用し、苦痛の少ない検査をめざしています。また、こうした内視鏡技術の習得をめざす若手医師の研修も積極的に受け入れています。
呼吸器感染症の適切な治療をめざす
肺炎、肺結核、非結核性抗酸菌症などの呼吸器感染症については、微生物検査室や感染制御室とも連携し、ガイドラインに基づいた抗菌薬の選択により最適の治療をおこなうとともに臨床研究にも参加しています。非結核性抗酸菌症については、診療指針である日本結核病学会の「肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解」の作成にも参画しており、この病気についてわかりやすくご説明しながら診療します。
間質性肺炎の診断により適切な治療をめざす
間質性肺炎の診断のため、当院では呼吸器内科医師、放射線開始、病理学医師での多職種カンファレンスを定期的に開催しています。診断をもとに患者さまそれぞれに合った最適な治療法で診療します。
主な疾患
喘息:
ハウスダスト・ダニ、ペット、花粉などのアレルギーの増加を背景に患者さんが増えています。黄砂やストレスなども喘息の悪化に関係します。近年では吸入ステロイド薬などの治療薬の進歩により、多くの患者さんで喘息は良好にコントロールできる病気になってきました。吸入ステロイド薬を中心とする治療を十分に行っても症状が持続するような治療が難しい患者さんには、生物学的製剤、気管支サーモプラスティなどの最新の治療法も導入致します。長期にわたり治療がつづけられるよう、薬剤部と連携して吸入指導を行うなど、患者教育にも力を入れています。
慢性閉塞性肺疾患(COPD):
殆どの患者さんで喫煙が原因で、近年テレビCMなどでも取り上げられ広く知られるようになりました。禁煙が第一の治療です。当院では禁煙外来を開設し、保険医療での禁煙治療をすすめています。息切れなどの症状に対しては、気管支拡張薬を中心とする吸入療法などをおこないます。患者さんの状態に応じて在宅酸素療法やマスクによる持続陽圧呼吸療法も導入します。
慢性咳嗽:
咳は患者さんが医療機関を受診するきっかけとなる一番多い症状であり、特に近年長引く咳でお困りの患者さんが増えています。何年も続く咳で苦しまれている患者さんも少なくありません。当科では東海地区の大学病院で唯一の咳の専門外来を開設し、豊富な臨床経験と実績、海外の専門家との情報交換なども活かした最先端の診療を進めています。症状や経過を詳しく伺い、各種の検査も施行し、原因の特定と治療をおこないます。
肺がん:
がんを臓器別にみた際、肺がんは最も死亡数が多いがんです。病期と患者さんの全身状態により、化学療法、放射線治療、手術、あるいはその組み合わせた治療、から選択します。化学療法では、最新の診断と科学的根拠に基づき、数多くの抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬の中から適切な治療薬を選択します。条件が合う患者さんには、新しい治療法の開発へつながる可能性のある臨床試験、治験へ参加していただくことも可能です。
悪性胸膜中皮腫:
アスベストとの関連で近年患者さんが増加しています。呼吸器外科と手術の可能性について検討します。内科治療では抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬による治療が中心となります。
肺炎:
人口の高齢化にともない患者さんは増加しています。適切な全身管理をしながら、ガイドラインに基づいて抗菌薬を選択し治療をおこないます。リハビリテーション部と連携し、寝たきりにならないように早期離床訓練をしたり、誤嚥性肺炎の再発予防のために嚥下機能訓練をおこなったりしています。
間質性肺炎:
間質性肺炎は微生物の感染で起こる一般的肺炎とは全く異なる病気です。原因には膠原病、薬剤、居住環境のカビなどがありますが、全体の約半数は原因の特定できない特発性間質性肺炎です。特に特発性間質性肺炎の患者では、気管支鏡検査および、世界的な標準方法である外科的肺生検(せいけん=肺の一部を取る)によって患者様個々に合った適切な薬の選択を行っています。ステロイド薬や免疫抑制薬か、抗線維化薬であるピルフェニドン(ピレスパTM)、ニンテダニブ(オフェブTM)での長期治療を行います。病状や経過は個々の患者さんや間質性肺炎のタイプによって様々ですが、進行すると咳や息切れなどの症状が悪化します。この病気は、時に急速に悪化する場合があり命に関わることがあります。体内の酸素不足が進行した際は、在宅酸素療法が必要となります。
肺結核:
罹患率の減少は鈍化しており、国内で未だ年間に2万2千人以上の結核患者が発生しています。ヒトからヒトへと感染する病気ですので、排菌がみられる場合には、結核専門病院へご紹介の上での入院治療が必要となります。排菌のない場合には主に外来で抗結核薬の内服治療をおこないます。
非結核性抗酸菌症:
非結核性抗酸菌は結核とよく似た菌ですが、環境からヒトへと感染する病気でヒトへの感染性はないとされます。近年増加傾向で、とくに肺に病気をもたない中高年の女性や何らかの原因で免疫力が低下している患者さんにみられます。一般にゆっくりと進行する病気で、経過観察でよい場合もありますが、病状によっては抗結核薬を含む複数の抗菌薬を組み合わせて長期間にわたる治療をおこないます。
気胸:
肺の表面に穴が開いて、肺が縮んでしまう病気です。COPDなど肺の病気に関連して起こるものとそうでないもの(特発性自然気胸)とがあり、後者は比較的若年の男性に多いです。胸腔ドレナージという処置で肺の空気漏れを止めるようにしますが、肺の拡張が悪い場合は呼吸器外科に相談し、手術を行うこともあります。
臨床研究
現在参加している多施設共同研究は以下のとおりです。
1. 上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の初回治療におけるアファチニブからオシメルチニブへの切り替え療法の無作為化第II相試験(TORG1939/WJOG12919L/YAMATO)
2. Oligometastasisを伴うIV期非小細胞肺癌に対するPembrolizumabを含む集学的治療の第II相試験(WJOG11118L/TRAP OLIGO)
3. EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌におけるアファチニブからオシメルチニブへの逐次投与の有効性を評価する多施設共同前向き観察研究(Gio-Tag Japan)
4. Singleplex検査で遺伝子異常未検出の非扁平上皮非小細胞肺癌を対象とするcell free DNAを用いたGuardant360によるMultiplex遺伝子解析に関する前向き観察研究(WJOG13620L/STARLIGHT)
5. EGFR遺伝子L858R変異陽性非扁平上皮非小細胞肺癌に対する初回化学療法としてのエルロチニブ+ラムシルマブとオシメルチニブの無作為化第III相試験(WJOG14420L/REVOL858R)
6. Mycobacterium acium-intracellulare complexのフルオロキノロン抗菌薬に対する薬剤感受性に関する全国調査
7. 高齢者肺炎に対するインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの肺炎予防に関する症例対照研究
8. C.difficile感染症患者に対するフィダキソマイシンの有効性と安全性の検討
9. C.difficile感染症の重症度判定(MN基準)の評価
10. C.difficile感染症,医療関連感染に関する研究
11. C.difficile感染症の病院サーベイランスに関する研究
12. 特発性間質性肺炎に対する多施設共同前向き観察研究
13. 日本での遷延性および慢性咳嗽患者における診療実態に関する多施設共同前向き観察研究
14. 慢性閉塞性肺疾患を有する慢性心不全患者におけるLAMA/LABA投与による心不全改善効果の検討に関する探索的臨床試験
15. 気管支拡張症合併難治性喘息の実態調査
16. フェノタイプ・エンドタイプに着目した本邦の喘息患者における3年間予後の検討
17. 複数生物学的製剤使用環境下における重症喘息前向きコホート研究 PROSPECT研究
18. 国際重症喘息登録
19. 重症気管支喘息患者の生物学的製剤の有効性を予測するバイオマーカーの探索
20. 喘息患者における中用量吸入ステロイド/長時間作用性β2刺激薬 (ICS/LABA) 治療抵抗性の咳嗽に対する、中用量Indacaterol(LABA)/Glycopyrronium(長時間作用性抗コリン薬)/Mometasone (ICS)と高用量ICS/LABAの有用性の多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験
21. 重症喘息における生物学的製剤中止例の調査研究
上記以外の臨床研究は以下のとおりです。
1. 胃食道逆流症による咳嗽機序:食道粘膜のTRPV1発現と神経原性炎症の関与
2. 肺癌における治療感受性および予後に関する遺伝子群の発現及び変異に関する研
3. 小細胞肺癌におけるネスチンの臨床的意義および治療標的としての研究
4. 小細胞肺癌における個別化医療を目指して:アムルビシン治療バイオマーカーの解明
5. アムルビシン薬物動態と遺伝子多型との関連の検討
6. 間質性肺炎の診断・治療に資する、上皮間葉転換に注目した革新的バイオマーカーの開発
7. 特発性肺線維症の臨床指標と身体活動性の関連に関する研究
8. 喘息・慢性咳嗽患者における新規バイオマーカー・生理学的指標探索の包括的検討
9. 喘息治療が及ぼすカプサイシン咳感受性の長期変化の検
10. 重症難治性喘息および難治性慢性副鼻腔炎合併喘息における抗ヒトIL-4受容体αモノクロ―ナル抗体の有効性に関する包括的検討
11. 喘息・慢性咳嗽に関わる遺伝子解析研究
12. 治療抵抗性慢性咳嗽の制御へ向けて:バイオマーカーを用いた病態多様性へのアプローチ
13. 重症喘息の気道過分泌病態に関する研究
グループ紹介